■うつ・自閉症と腸内環境の関係
認知症だけでなく、うつ病や自閉症といった精神疾患と腸内環境の関係についての研究も進んでいる。 国立精神・神経医療研究センターが43人のうつ病患者と57人の健常者の腸内細菌叢を比較したところ、患者群ではビフィズス菌量が健康者より有意に少なく、乳酸菌も少ない傾向が見られたという[注6]。 研究チームはうつ病の発生には、末梢(まっしょう)神経や中枢神経で発生する慢性的な炎症が関与する場合があると指摘しており、この炎症がビフィズス菌といった有用菌の減少や腸内細菌叢の乱れに起因する可能性もあるとしている。 一方、発達障害の一つである自閉症スペクトラム障害(ASD)と腸内細菌の関係も、世界で注目されている研究分野のひとつ。米アリゾナ州立大学の調査では、自閉症児の腸内細菌は非常に多様性が低く、腸がもろい傾向にあること、胃腸障害があるほどよりASD症状が重いことがわかった。そこで、同大学研究チームは、ASDの児童18人に抗生物質や健康な人の腸内細菌移植を組み合わせて腸内細菌叢を変化させる治療を行い、その後2年間追跡。その結果、2年間で腸内細菌叢の変化に伴う症状の大幅な改善が見られたと報告した。 試験前に被験者の83%が重度の症状だったが、2年後には重度は17%に減り腸内細菌叢では多様性が増し、ビフィズス菌や、腸を守る上皮細胞の栄養となる酪酸という物質をつくる菌(プレボテラ菌)の増加が顕著だったという。 健康な人の腸内細菌移植といった医療はまだその安全性や実効性が評価中の方法で、私たちが普通に受ける段階には至っていないが、食物繊維やビフィズス菌、乳酸菌の摂取を心がけることは可能だ。実際に、こうした食品の摂取でうつや自閉症が改善したという報告はいくつもある。 例えば、米国の成人1万6000人以上の食生活とうつ症状の関係を調べた研究では、食物繊維を多くとっているほどうつ症状になるリスクが低いという結果が出ている。また、台湾の研究では、7~15歳の自閉症の子供71人に毎日乳酸菌を摂取させたところ、イライラや挑発行動が減り、ADHD(注意欠陥多動症)の中核症状評価テストで、スコアの明らかな改善がみられたという報告がある[注7]。まずは、認知機能や心の健康のためにも、腸にいい食生活を送ってみよう。
[注6] J Affect Disord. 2016 Sep 15;202:254-7.
[注7] Nutrition. 2018 Oct;54:48-53. Nutrients. 2019 Apr 11;11(4).
(ライター 堀田恵美)
佐治直樹副センター長国立長寿医療研究センター もの忘れセンター岐阜大学医学部卒業、岐阜大学医学部附属病院、兵庫県立姫路循環器病センター(神経内科医長)、
川崎医科大学脳卒中医学教室(特任講師・特任准教授)などを経て、2015年から現職。
脳血管障害と認知症の共通リスク因子が専門。腸内細菌以外にも難聴や不整脈と認知症の関連についても研究。 清水金忠所長森永乳業 基礎研究所名古屋大学大学院農学研究科後期課程修了。理化学研究所での研究職を経て、森永乳業へ入社。2015年より現職。ビフィズス菌や乳酸菌の保健機能、製造技術に関する研究を行う。
農学博士。






















